翼を失くした天使の羽音
「あれっ、電気消えてるじゃん」


パチン――。

声と同時に、目の前が明るくなった。


「うぉーっ、びっくりしたー。神崎ー、お前いたのか」


入口の近くにいた、わたしに驚いて声を上げたのは、
美術の三浦(ミウラ)先生だった。


「すみません……」


ドキッ。
泣き顔、見られたかな?



「入るぞー」


そう言って先生は、さっさと本を選んで、

「電気くらい点けろー。目が悪くなるぞー」


わたしに言い残して、去って行った。



明かりの灯った図書室。

三浦先生のおかげで、涙も止まった。


顔を上げて、奥の窓に視線を向けた。

その中に見える景色の中に、彩人くんの姿はなかった。



ねぇ、彩人くん。
抱きしめられた肩が……熱いの。



ひどいよ……。

今のわたしは、その感覚を忘れる事すら難しいのに――。


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