翼を失くした天使の羽音
2段に積み重ねて、廊下に出してある机のせいで、少し狭くなった通路を早歩き。

そして、渡り廊下から図書室の裏までは走った。


外の空気が、ほんのり火照った頬を冷やしてくれる。


パリ――パリッ。

落ち葉を踏み鳴らしながら、
たどり着いたその場所には人影が……。


あの大きな銀杏の木の下にもたれて座っているのは、


彩人くん。



わたしは、そっと近づきながら、


「彩人くん!」


名前を呼ぼうとしたけど……それをやめた。



彩人くんの手に握られていた、ある物に気づいて……。



写真――?


わたし、両目とも視力が2.0だから、きっとそうだ。



――誰の……?


考えようとして、怖くなった。


彩人くんの、その写真を見つめる瞳が――切なかったから。


そんな、寂しい瞳をしていたから……。


< 85 / 190 >

この作品をシェア

pagetop