暗闇の廃校舎【短編】
退院後、母に俺が意識の無い間、ずっと握りしめていたという人形を渡された。
「捨てようかどうか、迷ったんだけどね」
と、手渡されたソレは、あの時見た人形――
取れかけていた頭は綺麗に繕われ、白い布地は薄汚れてはいたけど、血の跡は無かった。
触れても、鼓動を感じない……普通の、人形だ。
「これ……洗った? 血の跡があったと思うんだけど……」
そう聞くと、母は気味の悪い物を見るような目で人形を見て……
「血なんて、知らないよ。頭はそのままだと不気味だから、縫い付けたけど……」
母は嘘をついているようには見えなかった。
だとしたら、あれは……?
確かに感じた血の臭いと、濡れた生暖かい感触、人形の“鼓動”……全部が、夢か幻だったとでも言うのか?
あんなに、はっきりと覚えているのに……
母には結局、夢を見ていた事にしてごまかした。