暗闇の廃校舎【短編】

退院後、母に俺が意識の無い間、ずっと握りしめていたという人形を渡された。


「捨てようかどうか、迷ったんだけどね」

と、手渡されたソレは、あの時見た人形――

取れかけていた頭は綺麗に繕われ、白い布地は薄汚れてはいたけど、血の跡は無かった。

触れても、鼓動を感じない……普通の、人形だ。

「これ……洗った? 血の跡があったと思うんだけど……」

そう聞くと、母は気味の悪い物を見るような目で人形を見て……

「血なんて、知らないよ。頭はそのままだと不気味だから、縫い付けたけど……」


母は嘘をついているようには見えなかった。

だとしたら、あれは……?

確かに感じた血の臭いと、濡れた生暖かい感触、人形の“鼓動”……全部が、夢か幻だったとでも言うのか?

あんなに、はっきりと覚えているのに……


母には結局、夢を見ていた事にしてごまかした。

< 22 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop