続②・絶対温度-私の定義-
「すいません、」
タタッと小気味よく踵を鳴らす音がして、耳障りが良いけれどどこか冷たい声が聞こえてあたしは振り返る。
…美形だわ。
そう率直に評すしかない端整な顔立ち、光栄な事に縁の細い眼鏡があたしと被っている。この方も眼鏡愛好者なのか。知的な瞳が口調の割に焦ったように見えてあたしは首を傾げた。
「女性を見ませんでしたか?ピンク色のコートを着た」
残念ながら、その人の尋ね人は記憶に捕らえていない。申し訳なく頭を下げると、その美形は丁寧に頭を下げ走って行った。
迷子かしら。
ピンク色のコート、だけで特定は出来ないけれど、冷静に見える一律した態度に事態は緊迫していないだろう、と勝手に結論づけた。