わがまま娘の葛藤。
飲み会終わり『てっちゃん』を出て、いつもみたくタクシーに二人で乗り込んで。
いつもとなんにも変わらないはずなのに、あたし達の間には奇妙な沈黙が流れる。
――もうやだ、こんな空気。
大体、蘭さんのことだって、礼の口からなんにも聞いてない。
『あたしの勘違いかもしれない』
『なんで何も言わないの』
期待と不満が入り混じった、複雑な感情に胸が潰れそうになる。
「――…礼。もしかして、さ。蘭さんってさ。礼となにか特別な関係なの?」
うわ!
何勝手に喋ってんの、あたしの口!
“いや、ほら!なんか様子おかしかったから… ちょっと気になったっていうか!”
わざと明るく、誤魔化すように。
「多分、お前が考えてるので正解。高校ん時の、元カノ」
言い訳も誤魔化しもない、シンプルで正直な言葉。
でも、その視線はあたしの方には向いていなくて礼がどんなことを考えているのか、どんな表情をしているのか、知ることはできない。
「でも、もうなんにもないから。千咲は気にすんな」
だったらどうして。
あたしの目を見て言ってくれないの。
なにも言うことができなくて。
また…――沈黙が流れた。
「ちー、ごめん。今日はちょっと飲み過ぎたし、このまま帰るわ」
アパートの前、あたしを下ろしてそう告げる。
飲み会の後はいつも、あたしの部屋で、なし崩しセックス。
ずっとベッドに拘束される、所謂“朝までコース”がお約束。
(そして、大抵。腰痛やら疲労やら寝不足やらで、次の日の午前はサボることになる)
――でも、正直助かった。
とてもじゃないけど、今日は礼と普通に過ごせる自信がない。
あたしが嘘を吐くのが下手なのか、礼の勘が鋭いのか。
あたしの嘘はすぐに見破られてしまう。
「うん。じゃあ、またね」
なんとか作った笑顔で手を振る。
そんなあたしに優しい顔でキスを落とし、またタクシーに乗り込んだ。
こんなときにさえ、変わらず胸は高鳴る。
なんて現金なあたしのカラダ。
『戸締まり、ちゃんとしろよ』
『髪乾かせよ』
『風邪引かないように、暖かくして寝ろよ』
家に着くと同時に受信したメッセージには、相変わらず私を心配して思いやる優しい礼の言葉。