わがまま娘の葛藤。
先ほどと同様、寝息を立てている礼の髪を撫でながら、蘭さんの言葉を思い出していた。
確かに1週間近くも会ってなかったけど。
『礼、なんか鼻声じゃない?』
『えー?周り騒がしいからじゃねぇの』
礼の強がりを。
あたしを心配させまいとする優しさを。
鵜呑みにして、気づかなかった。
こういう“優しい嘘”は、礼の十八番だって知ってたはずなのに。
そもそも風邪を引いたのだって。
あたしの家やバイト先の前でずっと待っていてくれてたからかもしれない。
自惚れだって、たかが風邪じゃないか、って、いつもなら思うんだろうけど。
蘭さんの言っていてことがあまりにも当たっていたから。
「礼。気づいてあげられなくてごめんね」
ほとんど独り言だったのに、礼はぱちっと目を開けた。
さっきまで気持ち良さそうに寝てたくせに。(ちょいちょいあたしの太ももあたりを触ってはいたけど)
心の中では悪態をついていても、ひどく不安げな顔をしていたんだろう。
むくりと起き上がって、あたしの頭を撫でるようにぽんぽんと叩く。
「ばーか。つまんねぇこと気にすんな」
“ちーらしくねぇな”
「でも、」
「あーもう、うるさい」
反論しようとするあたしの言葉は、無理矢理遮られてしまった。
礼の言葉と唇で。
「あのさぁ、あたし等いるの知ってる?
バックミラー越しに思いっきり見せつけられても、反応に困るんですけど〜」
ブーイング必至な栞と、くつくつと笑う大地くん。
茹で上げられたタコみたいなあたしと、意地が悪そうににやつく礼。
“心配するな”とでも言うように、あたしに向かって再度、優しく微笑む。
だいすきなその笑顔が、優しさが。
今はなぜか胸が痛くなる。