わがまま娘の葛藤。



本当は、蘭さんに言われる前から『礼に相応しくないんじゃないか』って思ってた。
ずっとずっと、不安で押し潰れそうだった。


でも。

『側にいて』
『不安にさせないで』
『あたしのことだけ、見て』

そんなことが簡単に言えるほど。
素直で可愛い女じゃないんだもん。



「礼の取り巻きの子たちにも、いろいろ聞かされた。…どこまでが本当?」

“蘭さんとすごいお似合いだったもんね”
“超ラブラブだったし”
“礼くん、まだ引きずってんのかな?”
“だから蘭さんにだけ素っ気ないんだよ”

わざとあたしに聞こえるように言ってたんだろう。
いつもは気にしない噂話も、ただでさえ凹んでたあたしには効果絶大だった。

こんなこと言われるのも、蘭さんじゃなくてあたしだから。
蘭さんだったら、きっとみんなから認められてた。


礼は何も言わない。
ただ、苛立った表情で前を見つめてる。

先に沈黙を破ったのは、礼のほう。


「…なんでちーはいつも俺じゃなくて他の奴のこと信じんの?」

あたしが口を開こうとしたまさにその瞬間。
狙っていたなら、これ以上はないくらい絶妙なタイミング。

礼の携帯がまたも鳴り響く。
呼びだしたのは、むろん、さっきと同じ人。

軽く舌打ちをして、電話を切る。
そのまま電源まで落として、黒いそれをソファーに投げつけた。

さっきの話を詰めようとしたんだろう。
あたしのほうに向き直る。

その礼の表情(かお)が見る見るうちに曇ってゆく。

――あたしの瞳からついに涙が零れてしまったから。



礼の前で泣くなんて久しぶり。

だって、あたしが泣くと礼はすごく心配そうな苦しそうな顔をするんだもん。
そんなの見たくなくて、極力泣かないようにしてた。
(てゆうか、別に泣くほど辛いことなんてなかったし)


だから、今ここで涙を流した自分が本気で恨めしい。

でも、蘭さんのことや取り巻きの子たちが言ってたことを思い出すと。
どうしたって、止まってくれない。


――あたしの意地も、もう限界だ。


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