わがまま娘の葛藤。


“礼に怒られる”

そう思ったけど、そもそもあたしがいないことにすら気づいてないんじゃないのかな。
みんなの前で言ったのはただのポーズで、もうあたしのことなんて心配しないかもしれない。
思い出すのは、蘭さんたちと楽しそうに話す姿。

さっきとは違う涙が、また流れてきそうになった。




―――!!!

ピカッと遠くで何かが光る。

…なに?


「ちーちゃん?!」

姿を現したのは――大地くん。

その姿を見て、安心したのかなんなのか、堪えていた涙がボロボロを零れ落ちた。


「大丈夫?」

そう言って差し出したのは、少し冷えたミルクティーの缶。
あたしが一時間かかって見つけられなかったものを、いとも簡単に目の前に差し出す。

「えっ?!どこにあったの?」

あたしがそれを受けとると同時に、持っていたカフェオレが消えた。
『交換しよ』と、口に含む大地くん。


「大浴場の近くの自販機。ちーちゃんに会ったら渡そうと思って買っといた」

嘘でしょ…
大浴場っていったら、大広間から数十秒。
なんかもう、本気で自分がマヌケに思えてきた。



“大地くん”

二人でベンチに座って、特になにかを話すわけでもなく。
その沈黙を破ったのは、あたしだ。

ん?と優しい声と笑顔が帰ってくる。

その声も笑顔も。
似てるわけでもないのに、礼を思い出してしまいそうになった。


「なんでこんなとこにいるの?」

こんな人気(ひとけ)のないところに。
あたしが迷ってしまうようなところに。
(まぁ、迷ったのはあたしの類い稀なる方向音痴のせいなんだけど)

「ちーちゃんがいないって礼が言い出して。栞と三人で探してたんだ」


礼が?

蘭さんたちといたのに?
席だって離れてたのに?

あたしを、気にしてくれてたの?


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