わがまま娘の葛藤。



「…礼、怒ってた?」

絶対そうだと分かってるんだけど。
それでも聞いてしまうのは、その場しのぎでも否定してほしいからなのか。

「――心配してた」

返ってきた答えは意外なもの。
だって、心配?
ちょっといなくなったくらいで?


「ちーちゃんさ、足痛めてるでしょ?」

いきなり言われて、驚く。
なんで、知ってるの。

大地くんの言う通りだった。
初めてのスノボで無茶したからか、夕方部屋に帰るころには足が腫れ上がっていて。
心配かけたくなかったから、みんなはもちろん、栞にすら言ってなかったのに。


「ただ迷ってるだけならいいけど、途中で足痛くて動けなくなってるかもって」

“礼が、そう言ってたから”

…なんて言ったらいいか、分からない。
だって、まさか、礼が気づいてたなんて思わなかった。



「ほんと過保護だよな、あいつ」

あたしの方を見て、呆れたように笑う。

“過保護”

その言葉があまりにぴったりすぎて、思わず笑ってしまった。

わざわざバイト先や大学まで送ってってくれたり、ダイエット中だって言ってるのに、半ば無理矢理食べさせたり、深夜に外出して尋常じゃないくらい怒られたり、戸締まりや健康管理に、異常にうるさかったり。

なんか思い出すほど、本当に…―――


「愛されてんなぁ、ちーちゃん」

あたしが心の中で思ったこと。
大地くんも同じように思ったみたいだ。


分かってる。
たぶん、誰よりも。
愛されてる。大事にされてる。

別に礼や他の誰かに言われたわけじゃない。
礼と一緒にいて、あたし自身が思って、感じたこと。

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