ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
「立派なマンションですね」
黙っていると、どんどん余計なことを考えてしまいそうだったので、何か会話のきっかけを作ろうとした。
「まあまあ、だと思うよ」
「私もオートロックのマンションに住めば良かったです……」
「オートロックだからと言って、全て安心ではないけどな。
空き巣にとって厄介なマンションだと思ってもらえる効果はある、かな?
裕香ちゃんにはくつろげる場所だといいけれど」
くつろげません、なんて心の中で思った。
今は『コウさん』だけど、この人は『チーフパーサー』で、厳しい上司。
パーサーにしごかれた日々を考えたら、くつろげる訳がないもの!
『コウさん』のままだったとしても。
別の意味で、私はくつろげないような気がする。
……4か月前から、私の心の中にずっといた、憧れの人だから。
エレベーターのドアが開いて、自然にエスコートされる。
一番奥のドアの前で、立ち止まったコウさんが真顔で言った。
「緊張しなくても大丈夫。
今の俺は君の上司じゃない」