ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
愛のかけら
辛い思い出がいっぱいある、海にまつわる仕事。
それでもこの仕事を『やりがいがあって、楽しい』と思えるのは……。
「賢い裕香ちゃんには、もう見抜かれてると思うけどさ。
今更遅いけど、ほんの少しでも親孝行している気分になれたらって考えた。
父と約束してたんだ。
『俺も船乗りになって、父さんと一緒に漁へ出る』って。
一緒に漁に出ることは叶わなかったけど、船乗りにはなれただろ。
父にとって大きな脅威だった国境も、クルーズ船ではそこを越えていくことが喜びになる。
自己満足だけど、約束を果たせた気持ちになれた」
その言葉に、大きく頷いた。
「ただ、海の上は油断してはならない場所だっていうのが、俺の中で刷り込まれてる。
平和な海であっても、何が起こるかわからない。
何かが起こった時、瞬時に的確な判断ができないと、命はもちろん、国際問題にも関わる船の上では、常に業務に集中すべき。
たとえ、休憩時間であったとしても。
入社以来、それは変わらない。
いや……正確には変わらない、はずだったんだけどな」