ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
そう言って、コウさんは目を細めた。
私が包んでいたコウさんの手を、今度はコウさんがそっと掴む。
心臓が、弾んだ。
「船酔い、辛かったよな。
可哀想だって思ったけど、あれが上司としてできる精一杯だった。
子どもの嘔吐を受け止めるわ、エロ親父のターゲットにされるわ、大事な指をボロボロにするわ……ほっとけなかった」
まだ荒れた指先を見られてしまい、恥ずかしくなった。
「すみません……手のかかる部下で」
「いいんだ。
その真面目でまっすぐなところが、裕香ちゃんのいいところだから。
初めてのはずなのに、タケルの結婚式で聴いたピアノの音色が、すごく懐かしかった。
今思うと、母も同じような演奏スタイルだったんだ。
母も真面目でまっすぐな、努力家だったよ。
恋愛も一直線でさ、駆け落ちで漁師に嫁いだ、音大卒のお嬢さんって珍しいだろ?」