ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~

「あの、ご挨拶が遅れてすみませんでした。

私は岩谷裕香(いわやゆうか)と申します。

お名前を伺ってもよろしいですか?」


「何かいきなりビジネスライクだなあ。

俺、そういうのホントは苦手なんだよね。

裕香ちゃんって呼ぶから、俺の事は『コウ』でいいよ」


「えっ!?」


さらっと言われたけれど、きっと下のお名前だよね?

そんな馴れ馴れしく呼んでもいいものなの!?


「今どき珍しい、男慣れしてない女子大生だよなぁ。

彼氏、いないだろ?」


戸惑う私に、笑顔で質問するコウさん。

既に質問ではなく、断定って感じだけど。


「……そう見えますか?」


「やっぱりね。うん、見える見える。

こんなに可愛いのに、周りの男は見る目ない!

いや、それとも裕香ちゃんが断り続けてた、とか?

理想が高いのかな……」


私の理想……。

今、一番触れて欲しくない話題、だったりするんですけれど。

せっかく引っ込んだ涙が、また溢れそうになる。

やだ。この人の前で、この周りが恋人だらけの状況で、絶対泣いたりできない。

必死に涙をこらえる私の顔をちらっと見て、コウさんは『しまった』という顔をした。


「ごめん。

だいたい察しがついた。

そういう事、か」

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