かんのれあ番外編
無論、さっきまでの俺らの話なんか聞いちゃいないようだった。


いつからいたなんて話を踏まえてもだ。


外の雨をそのまま被ってきたのか、水を落としながら編集部を出て行く。



「山崎さん、それ」



鏡華さんの姿が見えなくなった頃、渡辺が俺の足元に目をやって言った。


そして落ちていた何枚かの紙を拾う。


ついでに俺も渡辺の手元のそれを覗き込む。


鏡華さんの落とし物らしいが、企画書か何かか?



「って、なんじゃこりゃ?」



思わず言葉が漏れた。


いや、マジでなんじゃこりゃ。この内容は。




「……宮城野!」



鏡華さんの担当の名を呼ぶ。


「今日、彼女出張です」


「あぁ?マジかよ」


溜息。


企画内容自体は問題ないというか、まぁよく見るものだ。


人気作家のインタビュー記事。


「しっかし《美人作家に迫る!》ねぇ……」


当然だがこの場合、作品とは全く関係ないにも関わらず《美人》という形容詞に重きを置いているわけだ。


そしてこういった言葉には、作品がどうであれ、良くも悪くも読者は食いつく。


んで、あの鏡華さんだろ。


作品以外の所で作品を売ろうなんて、もっての外だろう。


怒りに震えて企画担当に話を付けに来た姿が、ありありと思い浮かぶ。


しかしあのお堅い副編集長が相手じゃ、鏡華さんと言えど防音壁に向かって叫んでるのとさして変わんないだろうに。


そうでなくとも、さっきの様子を見りゃ、相手を考慮しないでも結果はわかるっつーもんで。



よっぽど、悔しかったと見た。
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