花嫁と咎人
彼は静かに私の側に寄ると、そっと私の手を握り締める。
「ねぇエルバート。ラザレスは病での犠牲者は一割未満だと言ったの。…でもあなたは国中のあちこちでと言った。それは犠牲者が大勢いるという事よね?」
暫くの沈黙。
「…私は、あなたを信じていいの?」
不覚にも抱いてしまった不信感。
エルバートは暫く黙り込んでいたが、やがて口を開き言った。
「私はかつて国王様と王妃様と契りを交わしました。…いつ何時も姫様を守り、補佐し、支えになること。」
凛とした声。
「そして、姫様の為に生き…姫様の為に死すと。」
彼の紫の瞳が、私を見据える。
「それに私には、貴女に偽りを申す勇気などございません。」
悲しげで、でも優しいその視線。
…エルバートが嘘をつくわけない。
疑う余地すらないのに…私ったら…。
「…そうよね、疑ってしまってごめんなさい。やはり…病の流行は深刻な事態であることに間違いはないのね。」
しかし、エルバートは途端に眉をひそめた。
「それにしても、こんな見え透いた嘘を…ラザレスは意地でもこの件に姫様を関わらせたくないのでしょうか。」
続けて彼は言う。
「先日、自分の目で状況を確かめようと、街に下った所、やはり病の感染力は実に凄まじい…。恐らく人口の三割方は感染し…命を落としているかと…。」