花嫁と咎人
懐かしき面影
翌朝。
朝食を済ませるなりなるべく人目を避けるようにして、私達は国王補佐のサミュエル・オンド・クロイゼングが暮らす部屋へと向かった。
彼はとても温厚な老人で、昔からよく私におやつをくれたり、遊んでもらったり…彼から教わった雑学は今でも人生の財産となっている。
父が死に、私が女王となっても尚変わらず、国王補佐として助言を与えてくれる才のある人だ。
「久しいわ。サミュエル…元気にしているかしら…。」
しかし最近は昔ほどサミュエルと顔を合わせることも少なくなり…
どうやら年のせいか体調も優れない日が続いているようで。
昨日の会議も欠席だった。
「姫様。」
エルバートに声をかけられ、前を見る。
長い渡り廊下を歩いて、別塔の最上階の大きな一室。
サミュエルの部屋はもうすぐだ。
「…お変わりないといいですね。」
「…ええ。そうね。」
そうこう話していると、あっという間にサミュエルの部屋の前まで来てしまった。
…大きな扉に大きなドアノブ。
つい緊張して手が震えてしまうが、エルバートの微笑み後押しされ、コンコンと二回優しく扉を叩いた。
「…おはようサミュエル。入ってもいいかしら…。」
と声を掛けつつも、返事も待たず扉を開けた先には、豪華な椅子に腰掛けてお茶を飲む…
白い髭を蓄えた優しそうな目の老人が微笑んでいて。
「…おやおや、珍しく可愛らしいお客さんがお尋ねなさりましたなぁ。」
その言葉を聴いた瞬間、私は駆け出し…老人に抱きついた。