花嫁と咎人

溜め息を吐きながら「長げぇよ」と後ろの噴水で手を洗うハイネ。

それに習って、私も手を洗う。


「初めてだったもの…。多めに見て。」


口を膨らませながら、ハイネを見ると…彼は私の顔をじっと見ていて。


「……ハ、ハイネ…?」


何を思ったのか、突然私の口の端に手を伸ばし…
ぴっと何かを取った。


「?」


「米粒。恥ずかしい姫さんだな。」


そう言うハイネの人差し指には、私の口の端に付いていたであろう一粒のお米。

それだけでも顔から火が出るほど恥ずかしいのに…
ハイネは、そのお米を自分の口の中に、入れた。


「…!」


途端にボンっと音を立てて、頭が爆発したような感覚に襲われる。

何をしてるの、何をしているのハイネ…!

胸が苦しくて、ハイネの顔を直視できなくて。
この気持ちが何なのか分からなくて。

近くにいたサーカス団のサルが、耳を引っ張っているのが目に入った。
思わず私もそれを真似して耳を引っ張る。

すると以外にも痛くて、ちょっぴり涙が出そうになったけれど…
でもそれと同時に、この心が締まるような思いも…引いていった気がした。


「なんだそれ、サルの真似か?」


私の姿に鼻で笑うハイネ。

…そうだ、これからこうすればいいんだわ。
胸が苦しいときは、両耳を引っ張れば治るのよ。

いまはただ、そう自分に言い聞かせるしかなかった。



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