花嫁と咎人

「そ…そんなに離れなくてもいいのよ…?」


私が言うけれど、


「いや、駄目。もしバレたらオレがハインツに殺されるから。」


ブルブル震えながら彼は体操座りをきめこんで。


「そ、そう…?」


微妙な距離感が、沈黙を長引かせた。

いい加減沈黙に耐えかねた私は、目にごみが入ったと偽り一旦部屋を出る事に。
とりあえず、廊下に出て鏡を探すけれど。

鏡はもしかしてバスルームの中にあるのではないか。

気がついて一人で真っ赤になりながら、何度もその場で回転する私。


お馬鹿、私のお馬鹿!


言った矢先、すぐに部屋を戻るのも気が引けるし…だからと言ってバスルームに入るわけにもいかない。


ああ、困ったわ…!


だが、そんな時。
ふと視線を下げると、バスルームの入り口に何かが落ちているのが目に入った。

もじゃもじゃしていて…黒いもの…。
気になって近づいてみると、


「これ、ハイネのカツラだわ…!」


紛れも無くそれ。

駄目じゃない!こんなもの落としたら!

そう思ってカツラを掴んだはいいけど…


「どうすればいいの…?」


ごくりと息を呑む。

そして振り返った先には、水の音がするバスルーム。

い、一瞬なら、一瞬なら大丈夫よ…ね?
ちゃんとカーテンもあるだろうし。

少し扉を開けて中に投げればいいもの、そうよ、ぽいって放り投げればいいの。

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