花嫁と咎人

「…ああサミュエル!会いたかったわ…!」


「ワシも会いとうございましたぞ、姫様。」


優しく私の髪をなでてくれるその大きな手。
本当に…久しぶりの温もり。


「ご無沙汰しております、サミュエル様。…エルバート・ローゼンハインです。」


エルバートはサミュエルの膝元に傅き、左手を胸に当てて頭を下げた。

国王補佐のサミュエルは、城の中で言えば私に次いで高位な身分。

勿論下級貴族であるエルバートが彼に形式ばった挨拶することは必須、なのだが…


「そんな堅苦しい挨拶は無用じゃよエルバート。ほれ、早く顔を上げて、一緒にお茶でもどうかの。」


いつもそう言われて、彼は遠慮しがちに、


「…あ、左様でございますか…、ではお言葉に甘えて…」


立ち上がって、口をもごもごさせるのだ。

そんなエルバートの仕草が面白おかしくって、小さい頃よくからかっていたっけ…

心の中でそう笑いながら、私はサミュエルのを手伝いをする。


「エルバート、横の棚に角砂糖が入っているわ。」


ティーカップを食器棚から出しながらエルバートに頼んだついでに、ぐるりと部屋の中を見回す。


綺麗に磨かれた窓に、沢山の観葉植物。


雑学に関する本がずらりと並んだ本棚と…木製の机の上に置かれた一枚の肖像画。

そこには、幼き頃の私が描かれていた。


なんと懐かしく、初々しいのだろう。

昔と変わらない部屋の風景が、私の心を優しく包む。


…この部屋にはお父様やお母様の思い出が沢山詰まっているもの…。

< 14 / 530 >

この作品をシェア

pagetop