花嫁と咎人
「…ああサミュエル!会いたかったわ…!」
「ワシも会いとうございましたぞ、姫様。」
優しく私の髪をなでてくれるその大きな手。
本当に…久しぶりの温もり。
「ご無沙汰しております、サミュエル様。…エルバート・ローゼンハインです。」
エルバートはサミュエルの膝元に傅き、左手を胸に当てて頭を下げた。
国王補佐のサミュエルは、城の中で言えば私に次いで高位な身分。
勿論下級貴族であるエルバートが彼に形式ばった挨拶することは必須、なのだが…
「そんな堅苦しい挨拶は無用じゃよエルバート。ほれ、早く顔を上げて、一緒にお茶でもどうかの。」
いつもそう言われて、彼は遠慮しがちに、
「…あ、左様でございますか…、ではお言葉に甘えて…」
立ち上がって、口をもごもごさせるのだ。
そんなエルバートの仕草が面白おかしくって、小さい頃よくからかっていたっけ…
心の中でそう笑いながら、私はサミュエルのを手伝いをする。
「エルバート、横の棚に角砂糖が入っているわ。」
ティーカップを食器棚から出しながらエルバートに頼んだついでに、ぐるりと部屋の中を見回す。
綺麗に磨かれた窓に、沢山の観葉植物。
雑学に関する本がずらりと並んだ本棚と…木製の机の上に置かれた一枚の肖像画。
そこには、幼き頃の私が描かれていた。
なんと懐かしく、初々しいのだろう。
昔と変わらない部屋の風景が、私の心を優しく包む。
…この部屋にはお父様やお母様の思い出が沢山詰まっているもの…。