花嫁と咎人
溢れるばかりの思い出に浸っていると、紅茶の香りが漂ってきた。
どうやら支度が出来たみたい。
「今日は姫様の為に奮発して、最高級の茶葉を振舞いましたぞ。」
ふおっふおっと笑うサミュエルは、今日は調子が良いようだ。
少し安心した。
それから席に着き、紅茶の香りを楽しんでから、一口。
「…おいしい!おいしいわサミュエル!一体これはどうしたの?」
あまりにも芳しい香りと味に、私は感嘆の声をあげた。
隣に座っているエルバートも驚いた顔をしている。
紅茶通の彼がこんな顔をするなんて、この紅茶はよほど美味しいのだろう。
するとサミュエルは同じ笑い声を上げて、
「サミュエル・オンド・クロイゼング特製のスペシャルブレンドでございます。…お気に召して頂けましたかな?」
誇らしげにその白い髭を撫でた。
「…なんと、サミュエル様がお作りになさったのですか…!…高級茶顔負けの味だ…。」
こんなに驚いた顔をしたエルバートは初めて見たかもしれない。
物凄く、面白い。
そして暫く他愛の無い話をした後、本題は唐突にやってきた。
「…それで、今日ワシの部屋においでなさったご用件は何でございますかな、姫様。お急ぎの用件だとお見受け致しますがの。」
サミュエルの視線が私に向けられる。
―こんな時、すぐに躊躇ってしまうのが私の悪い癖。