花嫁と咎人
◇ ◆ ◇
「…っ、は」
強く頭を抑え、もがくように息を吸った。
全身の激痛に加え、燃えるように熱を帯びる肺。
まるで地獄にいるようだ、と声にならない声で喘ぎながら、食器洗いも終わらないまま倒れこむようにして座り込んだ。
…料理の中に毒が盛られていた。
しかもこの症状、何度か経験した事がある。
震える指でポケットを触るが、腐れ縁の小瓶が入っている形跡は無い。
「…クソ、」
やられた。
しかし、絶望感と確信の余韻に浸る間もなく、
霞んだ視界の中で、ゆっくりと自分に近づいてくる影があった。
それは、ジィンの妹であり、料理を作った張本人。
つまり俺の料理に毒を持った愚かで未熟な策士。
「…やっぱりアンタか。」
今出来うる精一杯の軽蔑を込めて睨めば、無表情のままこちらを見下ろし…アーニャは、優しくも強引に、俺の偽の茶髪を触ると引きずり下ろした。
「なんて綺麗で、複雑な色。」
水が溢れるかの如く露わになる銀色の髪を、褒めるでも貶すでもなく…ただ確信を得たように口元を歪める。
彼女は俺を見下ろしたまま、意味深に眉をひそめた。
「貴方が女王陛下を誘拐した死刑囚?…中々悪い事をするのね。」