花嫁と咎人
「…、目的は何だ…」
全身の痛みに耐え、途切れそうな意識を保ちながら…アーニャを睨んだ。
畜生、こんな所でくたばる訳にはいかない。
フランをあの牢獄に戻す事があってはならない。
あの笑顔を、守らなければ。
「あんなに毒を盛ったのにまだ話せるなんて。…恐ろしい執念ね。」
引きつった笑みを浮かべ、アーニャは見覚えのある小瓶をちらつかせる。
半分以上入っていた中身は、もうごく僅かになっていた。
「これでも私、独学で薬草学を学んでいるの。貧しいからいい教材も買えないけれど…それなりの知識はあると思ってる。」
「………。」
「これ…ウーズリヒテットですよね。3大劇薬の一つで、かつては上位階級貴族の暗殺によく使われていた毒薬。何故あなたがこんなものを?それとも女王陛下のもの?」
小瓶の中で、透明な液体が物騒に揺れる。
散々目つきが悪いと言われる俺が睨みをきかせても、小瓶から覗く彼女の瞳は動じない。
「ま、いいわ。…私が欲しいのはあなた達に賭けられている多額の賞金。これさえあれば、出稼ぎに出ている両親も戻ってこられる。こんなに貧しくて物騒な場所で生きるなんて、もう真っ平よ…」
下唇を噛みながら彼女は、強大な嫌悪をのぞかせて。
じとりと獣が獲物を狙うように、その瞳は俺を標的として視野に捉える。
「姉は正義感が強いから何も言わないかもしれませんが、本当は思ってるはず。あなた達を売る事が出来たらどれだけいいだろうって。」