花嫁と咎人

「でも、私は姉とは違う。
どれだけ卑怯な手段でも、私は私の欲しい未来を手に入れるわ。
例えあなたが罪人でなくとも、私はあなた達を私達の境遇に巻き込んで、売る。それだけよ。」


「…っの、クソガキ…」


あまりにも一方的なその考えは、俺の怒りを良くも悪くも奮い立たせた。


「てめぇのどうでもいい境遇と偏見に…、巻き込まれてたまるか、」


年端もいかない小娘1人に大人気ないとは思ったが、この言い様は気に食わないし、何よりここで勝たなければ俺たちの未来がない。


「アンタみてぇのが、親不孝者…って、言うんだよ…!」


俺は全身の気力をふり絞り、力任せにアーニャの胸倉を掴むと、声を押し殺して怒鳴った。
……が。


「…黙って。」


どうやら、彼女の方が一枚上手だったようだ。己の危険も顧みず、彼女は小瓶の中に残っていた毒薬を己の口の中に流し込むと…


「、!」


突然唇を重ねられた。

いや、俗に言う口移しってやつか。
こいつ…俺を殺す気だ。
抵抗も虚しく、多量の毒薬が止めどなく喉の奥へと流れ込んでくる。

しかし、悲劇はそれだけではなかった。


「……う、そ…」


視線を横に向けた時…見えたフランの姿。


「そ、んな…、」


何度も首を振り、口を手で押さえ…目に涙を沢山溜める彼女。

…な、んで…フランが…。

その時、昼頃フランに言われた言葉を思い出す。


『今日の夜、全部話すわ』


…しまった。

そう思ってすぐにアーニャを突き飛ばしたが、時は既に遅し。
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