花嫁と咎人
「…フラ…!」
言葉も虚しく…彼女は涙を零したまま外へと飛び出していってしまう。
一瞬にして何もかも失った様な気がした。
伸ばした手が届かない。
指先から脳まで…全部麻痺して…
小瓶が落ちて砕けた音と共に、俺の意識は遥か遠くへ放り出された。
◆ ◇ ◆
何かが割れた音に気づいたジィンとオズは、ほぼ同時に互いの部屋から顔を覗かせた。
「今の音、」
「何スか。」
不審に思い、足早に向かったのは先程の居間。
するとそこには誰も予想だにしていない、悲惨な光景が広がっていた。
「…?!」
「…な、なんだよこれ…!」
割れた小瓶、床に倒れているハイネ…放心状態で立ち尽くすアーニャ。
「…まさか、フラン…!」
無防備に開け放たれた扉を見た瞬間、ジィンは最悪の事態を悟る。
「ハインツ…!しっかりしろ!」
オズが慌てて駆け寄るが…彼は血を吐き、今にも止まりそうな弱い呼吸を繰り返すばかりで。
血だらけの床と、割れた小瓶。
そして、この惨劇の元凶であろう少女が、手を震わせながらも平然を保とうと、立ちすくんでいた。
まるで、こんなつもりではなかったのにと言いたげに。
オズもまた、最悪の事態を悟り、込み上げる恐ろしい感情に肩を震わせた。
鋭く見開いた視線を彼女から離すことなく、息を呑み…彼はユラリと立ち上がる。
それから怒りに任せ、立ちすくむアーニャの胸倉を掴み…壁に押し付けた。