花嫁と咎人

オズは横たわるハイネの腰に携えられたサーベルを抜き取った。

そして見据えたのは、アーニャ。


「…殺してやる…!」


この際何もかもどうでもいいと思った。

彼の居ない世界は、生きる意味のない世界だ。

どうせ死ぬなら、憎しみも、苦しみも…この計り知れなく積もった負の感情を、全部ぶちまけてから死んでやる!


「い、嫌あぁあああ!!」


「やめてくれ、オズ!」


アーニャの断末魔の悲鳴と、償いきれない過ちを犯した妹を、それでも守ろうとするジィンの叫びが響く。
しかしそれでも赦すことのできないオズは怒りと衝動に任せ大きくサーベルを振り上げた…その時だった。


視界の隅で、むくりと起き上がる何か。


そしてそいつは、ふら付きながら外へ出ると「おえっ」と何かを吐き出して再び家の中へ。
椅子に腰掛け、酒の瓶を掴み…今度はゴクゴクと飲み始める。

それから口の端についた血をふき取ると…そいつはこちらを見て言った。


「…血が付くと錆びるから、止めてくれ。」


だるそうな顔。
青い目。

……長い…銀髪。


「…ハイン…ツ……?」


紛れもなく、その姿はハインツ。
振り上げたサーベルが音を立てて床に落ち…オズは思わず首を傾げる。

…幽霊?

と思って床を見るけれど、そこにハイネの亡骸は無く。

涙目のまま彼に近寄ると、オズは思いっきり自分の頬をつねり…ついでにハイネの頬も引っ張った。


「痛てぇな!…何すんだよ!」

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