花嫁と咎人
「…シュヴァンネンベルク公は、姫様を陥れ…何かよからぬ事をしようとしているのではありませんか?」
「………。」
「先の会議では姫様が国政の問題に介入することを拒み、又、シュヴァンネンベルク公のご子息との婚姻を強要されたと姫様から伺っております。」
無言を決め込むサミュエル。
「もし!貴方様に姫様を守ろうとする意思、あるいは先代の国王様とこの国への忠誠心があるのであれば、どうか…力をお貸し頂きたく存じます。」
引き下がれぬエルバート。
「何卒…姫様を、姫様が統べるこの国を…お救い下さいませ…!」
「……エルバート…。」
椅子から離れて頭を下げるエルバートを見て、私は思わず涙が出そうになった。
こんなにも彼は私の事を考えて―…。
するとその時。
サミュエルが小さく息を吐き、参ったと言わんばかりにエルバートに手を差し出した。
「エルバート、お主の姫様への忠誠心はよく分かった…。じゃが…一つだけ言う。シュヴァンネンベルク公ラザレスは…お主が思っているよりも強大で、悪質じゃ。」
サミュエルは何処か悲しげで。
「今更…あやつを止めることなど誰にもできん。そう、先代の国王様、王妃様にも止めることはできんかった。」
しかし、何もかも諦めたような、そんな表情ではなかった。
「じゃが。」
サミュエルは言う。
身を呈し…私に無言の情報を伝えんとするかのように。