花嫁と咎人
「止めることは出来ぬとも…守ることは出来る。ラザレスの手から姫様を守る事…今はそれが精一杯の対抗策じゃ。そうじゃな、エルバート。」
「……はい、サミュエル様。」
「故にワシも口では伝えられなくとも…物でなら伝えることが出来る。姫様を守る為の術…そう、この王国の“穢れ”をの…。」
すると彼は、木製の机の引き出しから小さな手帳のような物を取り出した。
そしてそれを私の手に託し、祈るように頭を下げる。
「どうか姫様、これだけは決して誰にも見られまするよう。ワシが今…姫様に出来ることはこれくらいしかございませぬ。何卒…お許しを…。」
サミュエルの大きくて温かい手が、手帳と一緒に私の手を包む。
そんな彼を見て大きく私は首を振った。
「いいえサミュエル…そんな事無いわ、本当よ…本当にあなたには感謝してるの…。私こそ無理を言ってしまってごめんなさい。私が頼れるのはあなたとエルバートしかいないから…つい、縋ってしまったわ。」
私はサミュエルの手を握り返し、うな垂れた。
その時。
サミュエルは私の手に何かを握らせる。
「………?」
ゆっくりと手を開くと、そこには幾つかの貴金属類と大きなブルーサファイアが埋め込まれたペンダントがあって。
「売ったらきっと良い額になりますぞ」
にこりと笑みを零すサミュエル。
私はそんな彼に手を突き出したまま、
「だ、駄目よこんな…!受け取れないわ!」
そう言って拒否する。
しかしサミュエルは左右にゆっくりと首を振り、
「ワシからの姫様へのプレゼントです。受け取って下され。」
再び私の手の平ごと大きな手で包み込んだ。
私は暫くの間、彼の優しい瞳を見据えたのち…その大きく皺だらけの彼の手の上に自らの小さな掌を重ねた。
「ありがとう、サミュエル…。大事にするわ。」