花嫁と咎人
彼らは木の小船に傷だらけで乗せられてきたエルバートを王子様だと勝手に勘違いし、貧しい生活の中…至れり尽くせりの世話をした。
そのせいか傷の回復も早く…まだ完治までは程遠いものの、今では少々の畑仕事も手伝えるようになったのだ。
…だが、それにしても何処かおかしい。
確かにこの姉弟に助けられたのは事実だが、聞く所によると傷ははなから縫合されており、出血も少なかった上に包帯まできちんと成されていたというのだ。
それに何枚かの清潔な衣類もその小船に積まれており、明らかに誰かが手を加えたとしか思えない。
一体誰の仕業なのか。
あの状況からして、絶対にラザレスではない。
だとしたら他に浮かび上がってくるのは、あの―…
「…オーウェン。」
いや、仮にもしそうだとしても一体何故…?
何故自分を生かしておく必要があった?
分からない。
そう座り込んだまま、暫く息を吐いていると…コレットが近づいてきて、
「少し休憩するだ、王子様。」
激しい訛りをかましながら、エルバートの手を引く。
そして近くの小川の側まで来るとマットを敷き…おにぎりを取り出すとそれを彼に差し出した。
「あ、ありがとう…ございます。」
受け取り、マットの上にゆっくりと座り込むエルバート。
そして自分を見つめるコレットの方を向きながら口を開く。
「あの、そろそろその“王子様”って言うの止めて頂けませんか?…私はしがない一般人に過ぎません。」
「…だとしても別にいいっぺ。おら達に言わせてみれば…あんだは王子様だ。」
そう、この呼び方。
自分の名前はエルバートだと今まで何度も言っているのに、中々受け入れてもらえなくて。
王子様は王子様だと言って、コレットはおにぎりにかぶりつく。