花嫁と咎人
虚言と夢物語
◇ ◆ ◇
時を遡る事数週間。
丁度、別塔が炎上し…とある騎士が死んだとされた時。
「…まだ息はある。早く医師を。」
「し、しかし…この事をラザレス様がお知りになったら…」
「構うものか。いいから黙って医師を呼べ!」
オーウェンは血まみれのエルバートを地下の一室に送り込み…事情を知る一部の王国騎士団達にそう命じた。
躊躇いながらも、急ぎ足で立ち去る彼等。
オーウェンは既に息も絶えそうなエルバートを見下ろしたまま、小さく呟く。
「馬鹿が。誰が先に逝けと言った。」
その視線は冷酷で残酷で…しかし、それとは裏腹にまるで安堵と焦りを表すかのごとく、額に滲む汗。
「主を守る為に命を捨てるだと?…ふざけるな。死は…そんなに甘い物じゃない。」
どこかの物語のように意志を貫いた騎士を見ていると、どうしてか、やるせない気持ちがこみ上げてきた。
するとその時…駆け足で医師が部屋に飛び込んで来て。
「…これは、!」
事情を聞く間も無く、エルバートに処置を施し始める。
「終わったら、木の船に乗せて地下水脈に流せ。…この水脈はオーダ河と交わらない。運が良ければ4番街の何処かへ…運が悪ければ大海原へ。」
オーウェンはそう言いながら、
「これで借りは返した。あとはお前に運があるか無いかだエルバート。」
部屋の外へと出る。
「女王は…案ずるな。おそらく地下牢にいる死刑囚が何とかしてくれるだろう。」
そして、地下の闇に黒髪が溶け込む時。
獲物を狩るような鋭い金色の目が、輝いた。
「その為に…ここに連れてきたのだから。」