花嫁と咎人

ラザレスの眉間にしわが寄る。


「…これは私の物だ。これをどうしようと私の勝手だろう…!」


だが、同じように自分の眉間にもしわが寄って、


「子は親の道具ではありません…!…まだお気付きになられませんかラザレス様。」


「一体何に気づいていないと言うのだ、馬鹿が!早くそこをど、」


「何故お気づきになられない!早く治療をしなければ命に関わる怪我だ…!
大切な後継ぎに何かあれば、最も危惧すべき状況に陥るのは貴方自身ではないのか!」


刹那、ラザレスの視線が息子に向けられる。
声にならない声を上げて父から目を逸らす、少年。

冷ややかな視線が何度も自分と彼を通りすぎ…数秒。


「…クズ共が。」


吐き捨てるようにして言った後、彼は城内へと姿を消した。

その後姿を見送り、小さく息を吐く。
追って聞こえてきたのは少年の安堵の溜め息。


「…もう大丈夫ですよ。えっと…確かオーウェン様、でしたよね。」


振り返り、そんな彼に手を伸ばすが…

パシッ。


「触るな。」


父親と同じような冷ややかな目で…綺麗にその手を弾かれてしまって。

行き場を失った笑顔が凍る。


「僕は平気だ。別にこんな事…なんてことは無い。余所者は関わるな。」


…本当は痛いはずなのに。

必死に平然を装う彼に、何故かそれでも笑みを浮かべてしまった。


< 195 / 530 >

この作品をシェア

pagetop