花嫁と咎人

「っ、姫様…!」


慌てて駆け寄り、奪い返すように自分は彼女の体を抱きしめた。
そして…青年、オーウェンの方へと視線を移す。


「大丈夫だ、僕の香水で眠ってしまっただけだから。」


寂しそうに遠くを見つめる彼は、そっと地面に散らばる紅い薔薇の花びらに目を向けた。


「こうなってしまった以上、もうお前とは以前のように接する事は出来ない。」


「………。」


「父上はとんでもない事を考えている。でも、僕はそれに逆らう術を知らない。」


そして目が合う。


「エルバート。お別れだ。」


「…ええ。」


皮肉だ。
でも、こうなる事はお互い分かっていた。

オーウェンは父を。
自分は主を。

付く側が違う事を…出会った時から知っていた。

だから仕方が無い。
これからは互いに剣を交える仲となるのだ。

どれだけ会話をして来てきたにしろ、お互い良き友人となったにしろ…
その絆は…ガラスの様に脆く儚い物。


「今度会う時、お前は僕の…」


「…貴方は、私の」








     『敵だ。』








< 198 / 530 >

この作品をシェア

pagetop