花嫁と咎人
「っ、姫様…!」
慌てて駆け寄り、奪い返すように自分は彼女の体を抱きしめた。
そして…青年、オーウェンの方へと視線を移す。
「大丈夫だ、僕の香水で眠ってしまっただけだから。」
寂しそうに遠くを見つめる彼は、そっと地面に散らばる紅い薔薇の花びらに目を向けた。
「こうなってしまった以上、もうお前とは以前のように接する事は出来ない。」
「………。」
「父上はとんでもない事を考えている。でも、僕はそれに逆らう術を知らない。」
そして目が合う。
「エルバート。お別れだ。」
「…ええ。」
皮肉だ。
でも、こうなる事はお互い分かっていた。
オーウェンは父を。
自分は主を。
付く側が違う事を…出会った時から知っていた。
だから仕方が無い。
これからは互いに剣を交える仲となるのだ。
どれだけ会話をして来てきたにしろ、お互い良き友人となったにしろ…
その絆は…ガラスの様に脆く儚い物。
「今度会う時、お前は僕の…」
「…貴方は、私の」
『敵だ。』