花嫁と咎人
終焉と宵闇
帰りの道中、エルバートと少し別れた私は再び薔薇園へとやってきた。
色とりどりの薔薇が咲き誇り、ひやりとした秋風が吹く中…
薔薇園の中にひっそりと佇む…黒い髪の青年を見つけた。
彼は赤い薔薇の目の前に立ち、何かをしているようで。
私はそんな彼が気になり、気づかれないように歩み寄ってみると…
信じられない光景を目の当たりにした。
―彼が立っているその場所。
地面が見えないくらいに落ちている、赤い薔薇の花びら。
そう、それは彼がちぎったであろう薔薇の花びら。
「あなた、なんて事をしているの…!」
思わず私は、彼の手を掴んだ。
私より幾分か年上にに見えた彼は、そんな私を見下ろし…何処かで見たような微笑を浮かべ、口を開く。
「ああ、これは…麗しの女王陛下。こんなところで散歩でも?」
黒い髪がなびいて、赤い薔薇の花びらが舞った。
「今すぐ、薔薇から手を離して頂戴。…こんな事をするなんて…信じられないわ。」
腹が立って仕方が無い。
頑張って咲いた薔薇の花びらをちぎるなんて…
一体この人は、何を考えているの…?!
「おっと、これは失敬。何故だか赤色が目障りに思えてしまいましてね。一枚ちぎってみたら、つい。」
彼は薔薇から手を離したものの、未だに笑い続けている。
その笑みからはどこか狂気じみたものを感じずにはいられなかった。