花嫁と咎人
◇ ◆ ◇
俺は本を読んでいた。
家の庭の隅に座り込んで。
背には高い塀。
だが、突然その塀の上から声が飛んできた。
「なーあ、お前、毎日本ばっか読んでて面白いかよー。」
ふと上を見上げると、背中に大きな弓を担いだ少年の姿があって。
…またこいつか。
だが、気にせず俺は活字に視線を戻す。
最近、毎日来ては話しかけてくるのだ。
しかも塀の上から。
その前に、どうやって家の敷地内に入れたのか不思議で仕方ない。
「っておい無視かよ!なーなー、いつになったら話してくれるワケ?あ、まさかオレの事嫌い?えーうそ…やっべ泣きそう。」
それでもって凄く鬱陶しい。
一人で話しては、一人で勝手に騒いでいる。
「本…読めない。」
いい加減イライラしてきた頃だ。
自分の意思よりも早く口が開いていた。
「お!?今なんか言った!?」
するとそいつはギャーギャー騒ぎながら、何度も聞いてきて。
「本が読めないんだよ!」
思わず怒鳴れば「ごめん」とそいつは申し訳なさそうに眉を下げ、 数分間黙る。
そして数分間黙った後、また顔を出して、
「ね、それ何の本?」
と問いかけてきた。
また何度も聞かれるのが鬱陶しくなった俺は、
「“経済学及び歴史における重要な人物の名言を元にした他国語の習得と実践”」
嫌味を込めて、素早く返す。