花嫁と咎人
―倅。
やはり、彼の息子。
どうりで似ていると思ったわ…。
すると黒髪の彼はエルバートの威嚇など気にもせず、私の元に跪くなり手の甲に小さく口付けを落とす。
「…オーウェン・イブ・シュヴァンネンベルクと申します。先程のご無礼、どうかお許しを。」
微笑む彼の目を見て、悪寒が走った。
無言で頷く事しか出来ない私に、無言で口元を歪める彼は、
やはり、ラザレスとよく似ていて。
薔薇園での事を思い出しただけで、まるで地獄に堕ちたかのような気分になった。
しかし、ラザレスの横暴な言動は…まだ続く。
「さて、女王陛下。先の提案…我が倅と婚約を考える気になって頂けましたかな?」
相変わらず悪魔の様な笑みを浮かべる彼を再度一瞥し、呆れ顔でため息を吐く。
「まだそれを…。私は結婚する気など微塵もありません。」
「されど女王陛下、今後この国には必ずしも王が必要となってくるのです。」
「私が国王です。他に王は必要ないわ。」
「貴女一人でこの国を変えようなど不可能だ。」
「黙りなさい!貴方と言う人は…!」
今すぐにでも掴み合いの言い合いが始まりそうなほど、緊迫した空気が立ち込めた、その刹那、
「お引取りを!」
空気を切り裂くように、エルバートの声が部屋中に響いた。