花嫁と咎人

それは人。
背中を向け、路地裏に去っていく…金髪の男の人。


…刹那。
激しく心臓が脈打った。

呼吸が上手くできなくなって、肺が酸素を多量に求める。
汗ばむ体…瞬きをする事が出来ない瞳。


…その後ろ姿を私は知っていた。
幼い時からずっと目で追っていたのだから、忘れるわけが無い。


だが、その人物は…“死んだ”のだ。

そう。
この私を守る為に自ら盾となり…


私の目の前で幾重にも剣で刺されて“死んだ”のだ。


生きている訳が無い。


途端に記憶が脳裏を駆け巡る。

何度も面影に縋り、涙を流し…絶望と諦めを繰り返した毎日が嘘だというのか。
引き裂かれたように痛んだ心が偽りだというのか。


指先から頭のてっぺんまで震える指。
自然と乾いた瞳が潤い、眉が下がり…黄泉の国からその名が這い上がってくる。


その瞬間、私は駆け出した。


「!おい、どこ行くつもりだフラン!」


偽名を使っているのに、それをも構わずハイネは私を呼び止める。
でも、私の足は止まらない。

腰に携えた彼の剣。
脳内で繰り返される彼との思い出。

紫の瞳、金色の髪。


記憶を辿るように私は裏路地へと入った。

見えたその姿。
甦る残像。

失った悲しみと、小さな希望を胸に…


私は息を整え…その背中に声を投げかけた。


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