花嫁と咎人
そして彼は私とラザレスの間に割って入ると、今にも剣を抜きそうな勢いでその柄を強く握りしめ、ラザレスを一瞥する。
だが暫くの間を空けた後、彼は小さく息を吐き…もう一度口を開いた。
「姫様は過労により心身共にお疲れになられております。これ以上の対話は、私が許しません。」
するとラザレスは小さく舌打ちをして、
「たかが騎士風情が…」
と吐き捨てるように言うが…
「どうか…お引取り下さいませラザレス様。」
そんなエルバートの威圧に負けたのか、不服そうに眉をひそめ渋々扉の方へと向かっていく。
勿論、オーウェンを引き連れて。
そして一度だけ振り返ると、私に言った。
「仕方が無いのでもう一度…そうですな、明日の日付になる頃にまた伺わせて頂くとしましょう。それまでにはどうかご決断願いますよ…女王陛下。」
閉まる扉の隙間に見えた、一瞬の笑み。
瞬間、一気に力が抜けて、私は倒れこむようにしてベッドに顔を埋めた。
悪夢を見ているようだ。
もはやラザレスは、私にとって脅威でしかない。
…恐ろしい存在。
「私は、結婚なんてしないわ…。ラザレスの息子となんて…尚更よ…。」
考えれば考えるほど心なしか涙が溢れて。
嫌だと思えば思うほど、心が痛む。
「男に生まれれば…こんな事にはならなったの…?」
するとそんな私を見かねたのか…
エルバートが近くに寄り、そっと私を抱きしめてくれた。
「そんな悲しいことを仰らないで下さい。…姫様のように美しい女性など、世界中を探しても見つけることは出来ません。どうか姫様は姫様であり続けて下さいませ。…そうでなければ、私の存在理由がなくなってしまう。」
「…エルバート…。」