花嫁と咎人
二種類の愛情
…小さな、沈黙がその場を支配した。
残像は実像に近づき…真実は偽りに変わる。
振り返ったその男。
右目に巻かれた包帯、そこから覗く痛々しい傷。
しかし…その紫の瞳は変わりはしなかった。
嗚呼、何度その名を口にした事か。
死を受け入れて尚、何度心に思っただろうか。
男は私を見て、口を開く。
彼はいつも私をそう呼んだ。
「……姫さ…ま…?」
突然視界がぼやけ、目尻が熱くなる。
頬を伝う涙が心をもっと苦しめた。
例えかつての華やかな服を着ていなくとも、美しいドレスを纏っていなくとも…。
決して間違うはずの無いその姿。
彼は両手に持っていた水瓶を足元に置くと、私に歩み寄る。
そして目の前で跪くと…私の手を取り、小さく口付けを落とした。
「…髪を…お切りになられたのですね…。とても素敵です。」
優しい声、懐かしい温もり。
止まらぬ涙を拭う事無く…私は両手で彼の頬を触り、
「…本当に、」
優しく額と額をあわせた。
「あなたなのね…!」
一気に頬を伝う涙。
途端に男…エルバートは、悲しそうな顔をして私を見つめる。
「私は貴女をお守りする事が出来なかった…。故に、貴女に見せる顔がございません。」
凛とした声。
変わらぬ口調。
「ですが、一つだけ我侭をお許し頂きたい。」
刹那、私の体は彼の腕の中に引き込まれ、優しくその手で包まれて。