花嫁と咎人

…レネの後を追い、家の裏まで来る。

するとそこにはこじんまりとした畑があって。
沢山の野菜や、果物が成っていた。


「兄(あん)ちゃんはあっちでニンジン抜いで。」


…ニンジンかよ。

レネに指示された俺は渋々畑の隅に座り、ニンジンの葉に手をかける。
そしてそれを引っこ抜こうとした時…
レネの行動が目に入った。


「…それ、なんだ。」


視線の先にいるレネ。
彼が小さな木製の入れ物から取り出したのは、透明の瓶に入った薄赤色の液体。


「あ?」


すると彼はこれか?と瓶を掲げ、さも当たり前のように答えた。


「これは“聖水のもと”だっぺな。」


“聖水のもと”…?

そう言うが否や、彼は甕の水の中にその薄赤色の液体を少量入れ…
それを柄杓で掬っては畑に撒き始めたのだ。


「これを撒くとな、野菜が良く育つんだべ。」


得意げにレネは水を撒く。


「それに、これを飲むと不治の病も治るんだっぺ。…いつもブランタンに届けているのは“この水”さね。」


「………、」


刹那、ジャックの話が呼び起こされた。


『魔女が作った『例の水』を飲んだお陰で、おれ達は緋色の死神にやられなくて済んだ』


『“悪魔の子”が魔女の代わりにそれを届けに来る。』


…つまり、この液体が“緋色の死神”の感染を防ぐ予防薬で、元は魔女が作りだしたもの。

だがその魔女が死んだ為に、代わりに彼等がこの薬を町に配っている。


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