花嫁と咎人
「調子に乗るな、紛い物が。」
見下げた視線で自分を見る彼。
「お前が後継者として生まれてきていれば、こんな事にはならなかったものを。」
…何度、この言葉を言われてきただろうか。
マガイモノ。
ニセモノ。
エラバレナカッタコ。
ハインツを一度も恨まなかったといえば嘘になる。
本物に生まれてきた彼が羨ましかった。
あの青い瞳が羨ましかった。
朝起きたら瞳の色が変わっているかもしれないと、何度思っただろう。
でも…憎めなかった。
母と良く似た彼を、憎む事など出来なかった。
父は違っても…同じ母から生まれた弟には変わりは無いから。
同じ、悲劇の子として、変わりは無いから。
私の痛みと、ハインツの痛み。
違う種類の痛みでも、背負った傷は同じくらい。
それに、もし私を偽者と罵るなら…
こっちにだって言い分はある。
「…私が偽者なら…アンタは一体何なんだ…、」
まさに、
「…アンタだって、ニセモノじゃないか…!」
そういうことだろう?
振り絞った声、父の視線。
「26日後、どうなるか…楽しみだ。」
最後に私を蹴りつけて去っていく父。
唸りながら、冷たくなった両手を握り締める。