花嫁と咎人

わざと勘に触るような事を言うから、余計に私がハラハラしてしまって。

―…駄目よハイネ!

そう言おうと口を開きかけた時はもう、


「なぁ、お・う・じ・さ・ま。」


遅かった。


ハイネの言葉にエルバートはピクリと肩を震わせると…ぎっとハイネの方を向いて。


「…ええ、そうですね…これじゃあ、舞踏会にも行けません。ですが…」


そしてシチューまみれのその顔でにっこりと微笑むと…


「よもやあなただけ、舞踏会に行くなんて事は…あり得ませんよ、ね?」


その瞬間、エルバートは鍋の中からシチューに漬かったウィッグを取り出し、思いきりハイネに投げつけたのだ。


――…べちっ。


勿論、クリーンヒット。

ハイネもまた…エルバートと同じくシチューまみれに。

今度はエルバートがそんなハイネを見て、優しく…ねっとりと褒め言葉を言った。


「…普通の姿より、今の方がお似合いですよ。より白さが増して、女の子みたいです。」


―嗚呼、もう駄目だわ。

そう感じた瞬間、ハイネがとても素敵な笑顔になって。


「…おい、この死に損ない腐れ騎士。表に出やがれ。」


「ええ、いいですよ。髪の毛長くて気持ち悪い女装もどきさん。」


エルバート、即答。


「待って、二人とも…!こんな所で喧嘩だなんて…っ、だ、大の大人が恥ずかしいわ!」


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