花嫁と咎人
借りを返しただけにしてはオーウェンの不可解すぎる行動。
父を全面的に肯定してるなら、自分を助けるなど最大の禁忌だったはずだ。
それなのに彼は自分を生かし再び剣を交えてきた。
だが、それにしても気迫がない。
勿論殺意もない。
あの一件が本当に借りを返しただけの気まぐれだったならば、ここで自分をもう一度殺そうと、本気になってもいいはずなのに。
…おかしい。
彼は何かを企んでいる。
姫様を返せという割にはあの部屋にも近づかず、ましてや悪人に仕立て上げた死刑囚のハインツ君なんかには見向きもしない。
まるでわざわざ自分から足止めをされに来ているかのように―…。
だが、それはあながち間違いではないようだった。
…再びオーウェンと剣を交えた時…彼は私の耳元に口を寄せ、こう言ったのだ。
「…お前は全力で僕を止めればいい。」
「…え?」
「せいぜい苦しむようなフリをして、時間を稼げ。」
混乱している頭が更に混乱する。
彼の剣を弾き返し…エルバートは叫んだ。
「一体、貴方は何を考えているんだ!」
微笑む彼。
その笑顔が気に入らなくて。
「…只お前は正義であり続ければいい。悪を倒す正義、そう、僕達を倒す正義だ!」
…悪を倒す正義?
本当に訳が分からない!
「今は分からなくても、いずれ分かる!全ては終わりの為!悲劇を終焉へ走らせる為!……僕が仕組んだ事を、無駄にしてくれるな!」
そして彼は精一杯剣を振り下ろしてきた。
―…重い、思い…想い。
すれ違う何かが、そこにあるような気がした。