花嫁と咎人

  ◆ ◇ ◆


悪夢を、見ているようだった。

―…まるで…何処かの物語のようだった。

暫く立ちすくんでいると、コレットの叫び声がまた響いて…
俺はふと我に帰り、フランに駆け寄った。


「フ、ラン…!」


うっすらと開けた瞳、腹部に突き刺さった短剣。
血が溢れて…止まらない。

頭の中がパニックを起こしそうだった。

どうして、どうしてこんな事に―…!


俺は途端に窓ガラスを見た。

どうやら外にいた王国騎士団が、敵と間違えて短剣を投げたらしい。
そしてそれが運悪くフランに当たってしまったようだ。


「…、おい…!フラン、しっかりしろ…!俺が見えるか!」


肩を叩くが、フランは返事の一つもしない。

嗚呼、嘘だ。

誰か嘘だといってくれ…!


するとその時、レネが叫び声を上げた。


「入り口、見つけた…!」


その先にあったのは回転式の扉。
奥には地下に続いているであろう階段が見えて。

俺はぐったりとしたフランを抱えて、一目散にその通路に身を投じた。
階段を駆け下り…地下に着くともう一度彼女を寝かせては大きく息を吐く。


…どうすればいい。
どうすればいい…!


突き刺さった短剣。
口から血が出ていない事から、どうやら内臓に損傷はないようだ。
だけど、出血が止まらない。

パニックを起こした頭を必死に落ち着かせ、


「……―、」


俺は元々持っていたガーゼと包帯を取り出して、突き刺さった短剣ごとグルグルと巻いて固定した。


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