花嫁と咎人

その煙を直に吸ってしまったのか…ごほごほとむせ返るコレット。


「…ったく、子どもはあっちいってな。」


しっしっ!と言いながらそんな二人を奥へやると、タリアは再び煙を吐く。
そして一呼吸置くと、前を向いたまま口を開いた。


「…それにしても、よく生きてたね。フランに聞いてからあんたに会うまで…完璧死んだと思ってたよ。」


…小さなため息。

そんな彼女を見てエルバートはクスリと笑うと、


「死んだままの方が良かったですか?」


皮肉混じりに言った。

だが、


「馬鹿言うんじゃないよ。全く…あんたが死んだ事を受け入れられなくて、どれだけフランが泣いてた事か。」


とエルバートを叱り付けながらタリアは煙を吸って。

彼は少しうな垂れ、悲しげに微笑みながら「すみません」と謝る。


「…やはり、姫様は貴方の家に?」


それから暫くして彼女に問いかけると


「ああ、来たよ。…ハインツとか言う奴と。」


タリアは煙を吐きながらそう言う。


「…そうですか。」


エルバートは少し複雑そうな顔をしながら下を向いた。

…まあ、仕方の無い事だった。
今更どう足掻いたって、自分のいなかった時間を取り戻す事はできないのだから。

だけど、少し寂しい気もした。
今まで独り占めできた彼女の笑顔を、奪われてしまった事が。

そんなエルバートの心情を読み取ったのか、タリアは「嫉妬かい?」と笑いながら言ってきて。


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