花嫁と咎人
考えたくない。
でも間違いない。
これは紛れも無く“緋色の死神”の症状―。
だが、不運はそれだけでは留まらなくて。
「…あの水、持って、ない…。」
母が作り出したという例の水を、あの状況下で持ってこられるはずも無かった。
せいぜい自分が持っているのは風邪薬と、胃薬と、どうにもならない劇薬だけだ。
「一体、どうすりゃいいんだよ…!」
勿論、誰も答えを教えてはくれない。
だがその間にも死への一歩を辿るフラン。
―嫌だ。
自分だけ生き残って、彼女が死ぬなどあり得ない。
考えてしまう事すら罪深いのに。
胸の奥から溢れてくる変な感情。
後悔と、不安と…恐怖と、痛み。
それらに支配されかけた時、突然ちくりと首に痛みが走った。
「―…痛っ、」
反射的に首を触ろうと、手を伸ばすが…
まるで誰かに押さえつけられているかのように、それ以上手が上がらなくなって。
「…!?」
途端に指の先から一気にしびれが回り、ぐるんと視界が反転した。
「げっははは!…こりゃ大物じゃねぇか!」
刹那数人の足音と共に聞こえる男の声。
ぼやけた視界の中、地に伏したままで前を見れば…見える黒い革靴。
―…賊だ。
だが、気づいた時にはもう遅く…