花嫁と咎人

打ち砕く剣と


――…暗い。

嗚呼、とても暗くて…気持ちの悪い場所だ。


ピチャン。

ピチャン。


歩く度に足元で聞こえる水の音。

鼻につくような鉄の臭い。


―嗚呼、暗い。
暗くて、何も見えない。


「――…、」


すると、何かが足に当たった。
思わずしゃがみ込むと―…

突然何かに手を掴まれて。


『―…どうして…助けてくれなかったの…』


目の前にいたのは、腐りかけた…母の姿。


「……!」


『嗚呼…苦しい、悲しい…お前が早く私を見つけてくれさえすれば…』


母の恐ろしい顔、首に伸びる細い手。
真っ赤な口が大きく開いて、


『私は死なずに済んだのに…!』


刹那、俺はその手を振り切り走り出した。


右を向けば手と足首に鎖を巻いて、真っ赤な血を流したままこちらを見る…姉の姿。


『ハインツ…どうしてくれるんだ。お前が来てくれなかったから私は…』


ゴロンと音を立てて、彼女の首がずり落ちて。


『首が何処かへ行ってしまったよ。』


「―…、っ…!」



< 334 / 530 >

この作品をシェア

pagetop