花嫁と咎人
Chapter.1
姫君と罪人
石畳で出来た冷たい床。
頑丈な鉄格子。
ちいさなランプ。
地下牢の中で私はサミュエルから貰った手帳を読んだ。
何かあったときの為に、ドレスの中に忍ばせておいたのだ。
サミュエルの手帳、それは彼の日記。
過去から今日に至るまでのことがすべて、赤裸々と綴られていた。
日記はまだ父が幼い時の話から始まり…私たちが彼を訪れた日で終わっている。
…サミュエルは知っていた。
ラザレスが父を殺し、母を殺し…私に手をかけようとしていた事も。
けれど、それを私に伝える事は出来なかった。
何故なら彼もまた、ラザレスに脅されていたから…。
そう、私の命を天秤にかけられて。
優しいサミュエルは、私を救うために黙秘し続けた。
頑なに口を閉ざし、一人別塔に篭った。
“人と話す事が恐ろしい。ラザレスの陰謀を、明かしてしまいそうで。”
日記にはそう書かれていたページもあったくらいだ。
それほどまでにサミュエルは追い詰められ、たった一人きりで、自分と戦う日々を送っていた。
するとその時、日記の最後のページから何かがはらりと落ちる。
…何かしら。
首を傾げながらその何かを拾うと…
思わず口を押さえた。
手紙。
宛名には、私の名前が書いてある。
私は震える手を落ち着かせ、手紙の封を早々と切り、文字に目を通した。