花嫁と咎人
―――…
――…
―…
…暗い森。
遠くから漂う潮風の匂いが肌を掠める中、オーウェンは大勢の王国騎士団達に強制退却を命じた。
突然の出来事に戸惑う彼ら。
だが、オーウェンの心は揺るがなかった。
「もう、着いてくる必要はない。―…お前達にはお前達の人生がある。」
金色の瞳。
いつもは鋭く、冷徹で…残酷なその表情が、今は少しだけ緩んで。
「好きにしたらいい。家族に会うのもよし、恋人に会うのもよし。…城に帰らずとも、責めはしない。」
「――、ですがオーウェン様、」
戸惑う騎士団員の表情を見て、彼は微笑んだ。
「もう、いいんだ。」
―そして、
王国騎士団達は元来た道を引き返してゆく。
その姿を見送ったのは、オーウェンと…王国騎士団副団長のフレッドだけ。
「…お前はいいのか」
前を向いたまま、彼はフレッドに語りかけた。
いつもになく優しい声。
フレッドもまた前を向いたまま、小さく口を開く。
「…貴方を置いては行けません。」
「―…馬鹿が。」
そんなフレッドの姿を見てオーウェンは口角を上げた。
「そんな表情ができるなんて知りませんでした。まだ、きごちないですが。」
すると彼の口から思わず零れだした本音。
普通なら殺されてしまうかもしれない程の失言なのに、オーウェンはただ微笑むだけで。