花嫁と咎人
鐘が鳴る頃に
―場所はフィレンツィリア王国。
「さっさと歩け!」
罵声に罵声を重ねられ、彼女…ルエラは冷えた足を引きずるようにして歩き出した。
重い枷、音を立てる鎖。
「…うっ、」
首に巻かれたロープを引っ張られて、苦痛の声が漏れる。
長く螺旋状に続く階段を一段ずつ上っては…寒さに凍える体をさすり…
銀色の短い髪を揺らしながら、彼女は紅い瞳を大きく開いた。
幾重にも錠のかけられた扉を開き、木の扉を押し開け…久しぶりに出る外の風景。
残酷な程に晴れ渡った空を見て、
「……祝っているのか。」
ルエラは小さく笑みを零した。
今日は約束の日。
そう、ハインツが国を出てから…丁度5年目の朝。
しかし…。
彼は帰って来なかった。
だが、ルエラの心は安堵で満ち溢れていて。
これ以上の幸せは無いと思えるほどだった。
これでいい。
これでいいんだよ、ハインツ。
弟を守ってこそ、姉なのだから。
ルエラは小さく微笑みを零し、再び歩き出した。
…そして次に連れてこられたのは、父のいる部屋。
彼女は大理石の床に放り投げられ、床に伏したまま…目の前の椅子を見た。
「………。」
紅い瞳が捕らえた先にいたのは、憎き父。
彼はゆっくりと歩み寄ってくると…強引にルエラを立たせる。