花嫁と咎人

「まあどうせ…お前は死ぬのだ。今の内に別れをしておくといい。」


そして最後にルエラを見ると、


「その胴体とな!」


大口を開けて笑い、部屋から出て行った。


「畜生、」


同じようにルエラも部屋から連れ出され、父が歩く方向とは逆の廊下を引きずられていく。


「…畜生…」


憎いその後姿。
変わらぬその態度。

怒りが、治まることなど…


「畜生———!」



到底あり得なかった。



――――…
―――…
――…


目隠しをされたまま、車の中で何分も揺られる。

…チクタク、チクタク。

ポケットの中にある懐中時計が音を立てて。

ルエラは真っ暗の視界を彷徨った。


蘇る、母の姿。
幼い…弟の笑顔。


悲しみも、苦しみも心を埋め尽くすほど蘇ってくるのに、


涙はもう、出てこなかった。



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