花嫁と咎人
―そして、沢山の人のざわめきが聞こえた頃。
ようやく車から降ろされた。
その刹那、急に辺りは静まり返り…
人が動く空気だけが…感覚として伝わってくる。
足元を探るようにして…10段程階段を上り、10歩ほど歩いた時。
やっと目隠しが外された。
「――…」
眩しさに目をしかめ、覆っていた手を下ろしたその時…
見えたのは今自分が立っている広場全部を埋め尽くすほどの、沢山の人。
カメラを構えるはずの記者達も、今はそのカメラを手の中に納めて…
その視線は全て…自分に向いていた。
そしてその視界の右側には、大きな断頭台。
光る刃は勿論本物で。
ルエラは初めて、怖いと思った。
無言で立ちすくみ…只目の前の人々を見つめる。
すると、その時。
「…あんたは悪くないよー!」
突如聞こえたおばさんの声。
それを機に、あちこちから飛び交う…自分への言葉。
それを聞いて、やっと涙が零れた。
ぽろぽろと頬を伝う涙が、無慈悲な床の上に落ちて…
染み込んでゆく。
「―…ありがとう。」
ぽたり。
「皆…ありがとう…!」
その言葉が皆に聞こえないのは分かっていた。
でも、死ぬ前に…優しさをくれた事。
それが、とても嬉しかった。