花嫁と咎人

―そして、沢山の人のざわめきが聞こえた頃。

ようやく車から降ろされた。

その刹那、急に辺りは静まり返り…
人が動く空気だけが…感覚として伝わってくる。


足元を探るようにして…10段程階段を上り、10歩ほど歩いた時。

やっと目隠しが外された。


「――…」


眩しさに目をしかめ、覆っていた手を下ろしたその時…

見えたのは今自分が立っている広場全部を埋め尽くすほどの、沢山の人。

カメラを構えるはずの記者達も、今はそのカメラを手の中に納めて…
その視線は全て…自分に向いていた。


そしてその視界の右側には、大きな断頭台。

光る刃は勿論本物で。
ルエラは初めて、怖いと思った。


無言で立ちすくみ…只目の前の人々を見つめる。

すると、その時。


「…あんたは悪くないよー!」


突如聞こえたおばさんの声。

それを機に、あちこちから飛び交う…自分への言葉。


それを聞いて、やっと涙が零れた。
ぽろぽろと頬を伝う涙が、無慈悲な床の上に落ちて…
染み込んでゆく。


「―…ありがとう。」


ぽたり。


「皆…ありがとう…!」


その言葉が皆に聞こえないのは分かっていた。
でも、死ぬ前に…優しさをくれた事。

それが、とても嬉しかった。


< 362 / 530 >

この作品をシェア

pagetop